大森荘蔵 『知の構築とその呪縛』

 16世紀に始まった科学革命は、世界を数量的に表現しようとする考え方をもたらした。けれども、それによって「心」に帰属するものが排除され、自然と人間の分離、主観と客観の対立が生じることになった。常識が科学へ展開していく不可逆的な過程で、何が生じたのだろうか。近代以降の科学史的事実を精査し、人間と自然との一体性を回復する方途をさぐる。

 本書は近代科学によって構築された世界観とそれ以前の世界観とを対照とし、その融合を試みる内容となっている。我々には既に当たり前になっている、科学に支配された世界観を見つめ直すには最適な本であると思う。このテーマにはありがちな西洋思想対東洋思想という構造をとっていない点も面白い。また近代以降と近代以前の世界観を融合しようとする構想はかなりダイナミックなのに、その展開は慎重であることも大変魅力的だった。個人的には気軽に手にして、これほど得るものがあった著書に出会ったことがないように思う。何度も読み返したい一冊である。

 論理展開はわかりやすく、趣旨がはっきりしていて非常に読みやすい。また専門的という意味での難解さもないので、読者を選ぶということもなさそうだ。二十年以上昔に書かれたことも、特に気にならない。ちなみに解説は野矢啓一氏が担当している。「BOOK」データベースのレビューも野矢氏によるもの。大森氏の理想に対する賛否を問わず、多くの人におすすめしたい良書。少しでも興味を持たれた方は是非。 (amazonレビューより)

大森荘蔵 『知の構築とその呪縛』(ちくま学芸文庫)

大森荘蔵著作集〈第7巻〉 知の構築とその呪縛』

大森荘蔵 『知識と学問の構造―知の構築とその呪縛』 (放送大学教材)

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